『仕掛人・藤枝梅安』原作内クロスオーバー 〜 仕掛のかげに仕掛けあり

  • 思いがけず訃報が入ったので、保留分からプラスの話題も出していきましょうか。
  • 筆者は必殺シリーズ好きで、ここでも新作ドラマの記事を書いたりしてましたが、実は池波正太郎先生の原作本は1冊しか持ってませんでした。ブームの時にドラマの知識は色々と仕入れて1冊目はかじってみたのですが…ドラマと小説では媒体が違うと受ける感覚も違います。楽しみ方も違うということに、当時は馴染めなかったんですな。登場人物も梅安と元締の音羽の半右衛門以外はTV版設定とはパラレルワールドみたいだったし、その戸惑いもあったかも。後に原作準拠でドラマ化された「時代劇スペシャル」枠の小林桂樹版は見てたんですけどね(順序では『必殺仕掛人』より先に)。
  • それが去年の暮れ頃に、デパート閉店の古本市で見かけたのがきっかけで、揃える気になったと。近年古本屋も店舗数・品揃えともに減っており、順不同でちまちま読みながら最近読破した次第。
  • さて本題。小説版のメインメンバーとなる小杉十五郎という若い剣客。故人として名前が挙がる師匠の名が「牛堀九万之助」といい、あとがきの解説で触れるところによると、かの鬼平の親友とあった(調べると別作品で鬼平ではない…解説者のカン違い?)。鬼平吉右衛門版をかじった程度の自分は、「へえ」とそこではあまり気にも留めなかった。しかし、見知った名前が出てくると、話は変わる。
  • 短編「闇の大川橋」で、音羽の元締配下として顔を出した人物…それは「西村左内」「岬の千蔵」両名である。本来必殺シリーズのドラマ版でしか目にするはずがないと思い込んでいただけに、これには虚を突かれた。片や梅安の知人警護と片やつなぎと、顔見せ程度の出番でしかない。しかし、原作小説がTV必殺と当時並行して連載していたことを考えると、池波先生のメディアミックスへのサービスということではないか。(音羽も左内も実は別の池波作品出身だった)
  • さらに読み進めるに、小杉のある知人を名人と呼んだ人物として「秋山小兵衛」の名までが出てくるのだ。小兵衛と言えば、池波作品のもうひとつの代表格『剣客商売』の主役ではないか。こちらは主役とあって、藤田版ドラマを少しかじっただけの自分にもネームバリューが理解できた。
  • ここまでくると気になるのは、「池波作品は他にもクロスオーバーしているのではないか?」このことである。先の牛堀の件は『鬼平』キャラではなかったが、大坂の元締として登場する白子屋菊右衛門が『鬼平』にも登場していたのだという。他の短編とも各作品つながっている部分があるらしく、池波ワールドが(活動時期の差こそあれ)地続きであると筆者は知るのであった。
  • とまあ、途中原作風の文体になったりしつつ、原作ファンには多分今更なことを書いてみました。史実の人物同士ならつながっていてもコラボとは言わないけど、出会うはずのない架空の人物同士が同じ時空にいたってことになると、これは事件よね。アベンジャーズとまではいかなくても、時代小説でもスターシステムみたいなことはあるんだなあと、この年になって発見したってことで、記事にしました。
  • 仕事人2014の愚痴は訃報に続けて書きたくないので、また後日。口直し用に小林版梅安記事も用意してから。